月とねこ

設計した物置き場です

Haritora - ハードウェア設計のポイント解説 -

概要

izmさんから頂いたHaritoraのプロトタイプに対し、メカ・回路視点からブラッシュアップを行ったさいの、検討内容まとめ記事です。

Haritoraとは?

装着型の下半身モーションキャプチャーバイス
trackerたくさん付けるの高いやん?ってトコからスタートしてたはず。

何故作ったの?

1つ目は、最近Kicadで遊びはじめたので、じぶん以外の人が使うデバイス(回路)を作ってみたかった。
2つ目は、izmさんと得意領域が分かれており、かつお互いの領域について知見があるので、やりとりがスムーズ!!スーパーエンジニア izmさんはすごい!

構成要素は?

腰に取り付けるユニットを親デバイス、太ももやすねに取り付けるユニットを子デバイスと呼んでいます。
親と子は、LANケーブルで接続され、子機はディジーチェーン接続が可能です。
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完成品

親デバイス : CAD f:id:RyutoAI2xm:20200611210834p:plain f:id:RyutoAI2xm:20200611210745p:plain 親デバイス : 実機 f:id:RyutoAI2xm:20200611212127j:plain

子デバイス : CAD f:id:RyutoAI2xm:20200611210936p:plain f:id:RyutoAI2xm:20200611210955p:plain 子デバイス : 実機 f:id:RyutoAI2xm:20200611212135j:plain

生基板 f:id:RyutoAI2xm:20200703174011j:plain

先にまとめ

  • 基板CADの乗り越え方
    今年基板CADを覚えたばっかりで、実際のプロダクトとして基板を作ったのは初めてでした。
    回路設計は、ロボコン現役時「さっぱり分からん…」となり、どうしても苦手意識がありました。
    ユニバーサル基板でいろいろ作ることはあっても、基板化までたどり着けずだったんですが。
    今回のりこえられたのは、しごとで出会った、回路を相談できる友人達と、教えて貰ったこの本のおかげでした。
    booth.pm たとえば「KiCADのエラーと警告ってどこまで対処するべき?全部?」「回路レビューを頼む(有償で)」が気軽に相談できるので、どうにか作れるようになってきました。

  • 得たもの
    エレキ・メカをシームレスに変更出来るスキルは本当に楽ですね。
    「あ、ちょっとここ変えたい」という要求の難易度と実装コストを、自分で把握できるため、どちら側で解決するかをすぐ考えられるのが嬉しいです。
    他、仕事ではスクラム開発なのですが、チームでロボットを作りたいので、そこに貢献できるスキルを一個GET出来たのも、けっこう嬉しいポイントでした。

ここからが、本題です。

プロジェクトの前提条件

使用方法

  • ユーザー自身に装着して貰うデバイス
    • ユーザー自身がLANケーブルの抜き差しや、接続を行う(故にLANケーブルの接続ミスは減らしたい)
  • 親機はベルトで取り付け。子機はベルト or リングフィットの脚に付けるやつに挿す。
  • 電源は、別途ユーザーにモバブを付けてもらう

販売

  • 販売方法の想定は2種類
    1. 生基板のみ販売 (ユーザー側で、ケースの製造や、電子部品の購入・製造 )
    2. 完成品の販売
  • 初期の製造数は恐らく10~20セット程度。

プロジェクトのゴール

  • 初期ロットをizm or リュートが出荷が出来るようになること

プロジェクトの優先度

  1. 開発速度(出荷出来るレベルまでまずは持って行く)
  2. 安全性 (個人開発の為、使用時の怪我などは自己責任とさせて頂きますが、それでも安全は出来るだけ担保したかった)
  3. コスト (trackerより高いと作る意味ない)
  4. 耐久性
  5. 製造汎用性(ユーザー側で製造する際のばらつき対応)
  6. 量産性 (組み立て性やばらつき対応)

要求・要望

  • ユーザビリティ
    • M5stickCの電源ケーブルを挿せるように
    • M5stickCの電源ボタン(2カ所)のうち、いずれか1ヵ所を押せるようにする
    • LANケーブルの抜き差しは、ケースを分解せずに出来るようにすると嬉しい
    • 子機は上下が分かるように
    • 子機は、スイッチのケースに入れるケース形状と、脚に巻けるケース形状の2種類に対応して欲しい
  • 拡張性
    • 下半身のトラッキングが目的だが、将来的に拡張性(ex:上半身と接続できるポート)があると嬉しい
  • ソフトウェア的制約
    • IMUの取り付け方向は、親子で指定の向きとする
    • RJ45の接続口は、右足子機・左足子機で、別にしたい

設計検討事項

メカ側

  • 安全面
    • 装着時の怪我を防止する為、RJ45コネクタなどのエッジ面には触れない形状である事(基本的にケースで全て覆う)
    • 転倒時に人体の側で無い方が自壊する・屈曲するように構造で制御(特に親機)
    • 破損した場合、破損した部品が鋭角な壊れ方になりづらい材料で製造する
  • コスト
    • 試作のイテレーションの速さ、機材を持っている事から、FDMタイプの3Dプリンタを使用
    • 他の選択肢としては、光造形機やSLSプリンタ、NC加工によるMDFやアクリル板、タカチケース、板金、樹脂金型など。
  • 耐久性
    • 親子機が接続された状態で、いずれかの機器だけ持った状態で搬送される、ケーブルをどこかに引っ掛けるなど、LANケーブルが引っ張られる可能性が高いと判断
    • コネクタ周りに負荷が集中する事故が想定される為、コネクタの根元で基板やケースとの結合を想定
  • 組み立て性
    • 親機はねじ止めしやすいよう、位置決め穴を2カ所設定。子機は組み立て難易度が低いと判断し、位置決め穴は無し。
    • ネジはM2.5で統一(M5stickC 固定ネジは制御出来ないので例外)
  • 部品選定

回路側

  • 前提条件
    • izmさんの個人プロジェクトから始まっているので、電子部品の構成は確定済。
  • 耐久性
    • IMUなどの脱落防止に、着脱防止用のJQコネクタを検討。世界的な入手性が不明だったため、ケース側でIMUを押さえる方法に変更。
  • 仕様準拠
  • テスト性
    • M5StickCの使用していないピンと、I2Cのテスト用コネクタを別途実装
  • ノイズ対策
    • プルアップ抵抗を、各I2Cラインに接続出来るように追加(今のところは無しでも動く)
    • I2C マルチプレクサのリセットピンとM5StickCを接続(起動時・通信トラブル時等にリセットをかけられるように)
  • 汎用性
    • RJ45をAliexpressで買うと、基板と接続する端子の上下が変わる事があったので、両方挿せるように対応

実装時の工夫した点

子機着脱用爪

台形形状の構造とし、押し込むと、ニュっと入っていく圧力感と脱落防止を実現 f:id:RyutoAI2xm:20200611224912p:plain

LANケーブル着脱穴

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組み立て性

親機のフタを外せば、m5STICKCを取り外せるように実装しています。 f:id:RyutoAI2xm:20200611231219j:plain

テスト

親機を装着した状態で、お腹から転んでみる

  • ゆっくり/ちょっと激しく転倒を、それぞれ5回ずつ実施。僕のお腹限定ですが、ケースに破損は見られませんでした。でも、お腹痛いのには変わらないので、何度もはやりたくないですね。みなさんも気を付けて使って頂けると幸いです。

フタの脱落テスト

  • ベルトを通す部分辺りを手で持って、シェイクする感じで100回ほど激しく振ってみましたが、特に外れませんでした。

まとめ(悩んだ点・感想など)

回路

  • 低速の信号なので、そこまでノイズに配慮しなくても良いだろう反面、I2Cの一般的な使用方法と異なる為、どこまで気に掛ければ良いかが分からない。
  • Aliexpressの基板は、回路図が公開されていないので、ICのリファレンスを見ながら、きっとこの部品はこれ目的だろうという推測しか出来ず困った。
  • 子機はもう一回り小さく出来そうだなと思っているので、もちょっと別バージョン作ってみたい

ケース

  • 誰でも3Dプリントできる程度のパラメータで設計する(低価格3Dプリンタでも出せる収縮設計)。収縮比とかある程度目算持ってやってるけど、データ公開時は出力方向とか指定がいりそう。
  • 分解し易いけど、外れにくいケースにする点。上記の収縮の事を加味する必要があるので、実は結構難しかったりします。

感想

今回、ノリノリで設計して楽しくやってたんですが、あらかた作った後、ControlVR※というKickStarter案件を思い出しました。(※ 2014年に、上半身のモーキャプデバイスとして、5300万円を調達したデバイス)
6万円ほどバックしたんですがまだ届かないので、Haritoraが完成したら、バッカー限定のスレッドに「下半身は出来たけど、そっちはどう?」って書き込みたいなぁ。
https://www.kickstarter.com/projects/controlvr/control-vr-motion-capture-for-vr-animation-and-mor?lang=jawww.kickstarter.com

さいごに

Haritoraが動いてるところ、早くみたいなぁ ;)